SOLD OUT
辺境チャンネル<バックステージ>ZINE シリーズに、エンタメノンフ文芸部、内澤旬子が登場!
サイン本は100冊限定で発売。
2026年5月中旬発売以降のお届けになります。
【内容】
肉を食べない人は、何を思い、何に迷い、どう暮らしているのか。
屠畜を見つめてきた書き手が、ペスカタリアン※の女性らに話を聞き、食のルールの背景、家族との食卓、原材料表示との格闘、矛盾を抱えながら生きる実感をたどる。
正しさではなく、他者の選択を知るための聞き書きに、食べることの輪郭が揺らぐ。
※ペスカタリアン……植物性食品、卵、乳製品、魚介類を食べ、肉を食べない食生活を送る人のこと
■B6判中とじ ■60ページ
[試し読み]
はじめに
肉を食べない人、少し広げて食材の選定に一般的ではないルールを持っている人たちの話を聞いてみたい。そう考え始めたきっかけは、世間の人々がふとした折に見せるベジタリアン( 菜食主義者) に対して揶揄する態度が気になるようになったからだ。
何を隠そう私自身も少なからず持っていた。私自身が肉を食べるだけでなく時には自分の手で殺して解体処理をすることもあって、しかもそれをやめるつもりがないことを、批判されるのではないかと身構えてしまう。
前書きとしてはちょっと重くて長い話になるけれども付き合っていただきたい。面倒だったら★まで飛ばしてください。もう三十年近く前のことだ。『世界屠畜紀行』(角川文庫)を書くための取材をする中で、厳格なインド人ビーガン( 完全菜食主義者) と話をする機会があり、屠畜場の取材を「屠畜という仕事を肯定的に捉えるために」していることを告げると手がつけられないくらいの怒りを露わに罵倒された。この仕事をする人が差別されるのはおかしいという気持ちから始めた取材であることを告げたが「感情や意志のある動物を殺すのだから悪いに決まっている」と断じてどれだけ屠畜場では動物が残酷に殺されているかを捲し立てられ、一切話を聞いてもらえなかったし、彼がどのような経緯でビーガンになったのかを聞くことすらできなかった。
当時、二〇〇〇年代初めの日本では犬や猫など愛玩動物の保護活動は盛んだったけれどもアニマル・ライツ/動物の権利を掲げる団体が、畜産動物の扱いを問題視していることはそれほど知られていなかった。欧米では彼らが、屠畜場や牧場に潜入して家畜たちが非衛生的で非道な扱いを受けている動画や写真を撮って発表していた。欧米の屠畜場に取材を申し込むとまずは動物の権利運動団体のメンバーなのかと疑われ、ものすごく警戒された。
話を戻すとそのインド人男性は、知人の紹介で私が「屠畜場の取材をしていると聞いて動物の権利運動団体側の人間なのだろうと思っていたのだろう。私はすっかり縮み上がってしまい、ビーガンと話をするのが怖くなってしまった。
(つづく)